「Refugees Welcome」シールの軌跡 — 駅と街角に貼られた歓迎

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2015年夏、ドイツの駅で

2015年夏、ヨーロッパは難民危機の真っ只中にいました。

シリア内戦やアフリカの紛争から逃れ、何十万もの人々が地中海を渡り、北へ向かっていました。 ドイツのメルケル首相は、数十万人のシリア難民を受け入れると表明します。

「ドイツは強い国だ。私たちはやり遂げられる(Wir schaffen das)」

そんな中、ドイツの駅、街角、サッカースタジアムに、あるシールが貼られ始めました。

「REFUGEES WELCOME(難民を歓迎します)」

赤い背景に、白い文字。 そして、走る家族のシルエット。

あの「走る家族」の正体

このシールには、印象的な絵が描かれています。 父親が先導し、母親が手を引き、その先で小さな子どもの足が宙に浮いている。 必死に走る一家のシルエットです。

実はこの絵、もともとは難民とは無関係でした。

1990年、アメリカ・カリフォルニア州。 カルトランス(州交通局)のデザイナー、ジョン・フッドが、ある道路標識を作りました。 サンディエゴ近くの片側8車線の高速道路。 そこを横断しようとする歩行者を、ドライバーに警告するための標識です。

その歩行者の多くが、国境を越えてきた移民でした。 だから絵は「走って道路を渡る家族」だったんです。

警告から、歓迎へ

この「危険を警告する絵」が、四半世紀後に意味を反転させます。

活動家たちは、フッドの絵をそのまま使い、文字を変えました。

「Refugees Welcome: Bring Your Families(難民を歓迎します。家族と一緒にどうぞ)」

「危ないから気をつけろ」という標識が、「あなたも家族も歓迎します」というメッセージに生まれ変わったんです。

同じ絵が、文脈ひとつで正反対の意味を持つ。 これは、シンボルの力をよく表しています。

サッカースタジアムから広がる

このシールとスローガンを一気に広めたのは、意外な人たちでした。

サッカーファンです。

ヨーロッパのサッカーファンは、外国人に冷たいことで悪名高い面もありました。 でも2015年、ドイツのスタジアムでは違いました。

ボルシア・ドルトムントの名物スタンド「黄色い壁」に、巨大な「Refugees Welcome」の横断幕が掲げられます。 ドルトムントは難民220人を試合に招待しました。

バイエルン・ミュンヘンは難民支援に100万ユーロを寄付。 難民の子どものための「トレーニングキャンプ」を作り、ドイツ語の授業や食事、サッカー用品を提供しました。

そして2015年9月、ブンデスリーガの1部・2部の全選手が、左腕にこんなワッペンを付けて試合に出ました。

「私たちは手を貸します #refugeeswelcome」

7万5千人の観客が、招待された難民たちに拍手を送りました。

反対の声も、あった

もちろん、すべてが歓迎一色だったわけではありません。

同じ頃、ドイツのドレスデン近郊では、難民施設への襲撃が起きていました。 反移民デモも各地で行われました。

イスラエルのサッカーチーム、マッカビ・テルアビブのファンは、こんな旗を掲げました。 「Refugees not welcome(難民は歓迎しない)」

ヨーロッパのクラブへの、皮肉を込めた反応でした。

歓迎のシールと、拒絶の旗。 同じスタジアムという舞台で、二つのメッセージがぶつかり合っていたんです。

シールという形式の意味

なぜ「シール」だったのでしょうか。

シールには、独特の力があります。

貼れる場所が、無限にあること。 駅の柱、電車の窓、ノートパソコン、ヘルメット、店のドア。 誰でも、どこにでも、こっそりとでも貼れます。

そして、貼られたシールは「ここは安全だ」という小さな目印になります。 言葉の通じない国に着いたばかりの人が、ふと壁のシールを見て、ほっとするかもしれない。

横断幕は一度きりの掲示ですが、シールは街の風景に残り続けます。 小さくても、しつこく、長く、メッセージを伝え続けるんです。

タグ運動への、ヒント

「Refugees Welcome」シールが教えてくれることは、ふたつあります。

ひとつ目。 同じ絵でも、文脈で意味は反転する。 「警告」が「歓迎」になったように、シンボルにどんな言葉を添えるかで、伝わるものは大きく変わります。

ふたつ目。 シールは「街に残り続ける」メディアである。 一度の集会より、長く、広く、静かに語り続けます。

私たちのタグも同じです。 配って、貼ってもらって、街の風景の一部になる。 それは一日のイベントではなく、毎日続く小さな歓迎の声になりえます。

走る家族の絵が、危険の警告から歓迎の挨拶へ。 意味を変える力こそ、シンボルの本質なのだと思います。

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